2008-06-20

美しい書物

これらのメモのあちこちにいま目を通してみると、まずいくつかのものに失望させられる。じつのところ、私はそこに何を期待出来たというのか?それはシュルレアリスムがまだみずからをさがしもとめており、世界観としてみずからを明確化するにはほど遠かったからだ。みずからの前にひろがる時間を先読みできぬまま手さぐりで進み、みずからの威光の第一歩をおそらくあまりにも悦に入って享受していたのだ。影をつむぐものがなければ、光をつむぐものもない。(1962年)
      -NADJA(ナジャ)-Andre Breton 巖谷 國士 訳

アンドレ・ブルトンの作品「ナジャ」はシュルレアリスムが生んだもっとも美しい『書物』である。死後4年前、つまり1962年に自らの作品「ナジャ」に修正を入れ始めた。35 年前に書かれた作品に手を入れる想いはいかなるものかは想像の域は出ないが、完成を意識して書かれていなかったということだけはいえるだろう。

※このエントリィは「2004-06-28」にはてなダイアリに書かれたものが転載されたものである。